ルーツ調べやご先祖様に関わる一番のデータは「戸籍」となるわけですが、世界的に見ると「家族単位で集団を認定する戸籍」のような制度は、東アジアにしか存在しないと言われています。
とくに欧米では個人の概念が発達していますから、社会保障番号のようなマイナンバーは存在しますが、「戸籍」というシステムは、もともと存在していないのです。
わかりやすい考え方で言えば日本の「住民票」のようなものが、海外では個人を識別するベースになっているという感じですね。
さて、その「戸籍」ですが、皇居の住所である「東京都千代田区千代田1番」を登録する人が多く、千代田区ではその手続きにてんてこ舞いになっている、なんてニュースが話題になったりしました。
現代の法律では「戸籍を置く場所=本籍」は存在している住所であればどこに登録してもよいので、実際に皇居の住所を本籍地としている人が3000人くらいいるそうです。
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さて、私の本籍地は、父方の一族がルーツとしている「福岡県」になっています。いわゆる本家(私からみると、今はいとこが住んでいます)の住所を登録していますが、そのおかげで自分たちのルーツがどこにあるのかがわかりやすくなっています。
しかし、そうした氏族の思い入れがある地域を本籍とし続けることは、もちろんOKなのですが、ぜんぜん縁もゆかりもない地域に設定することもできるわけで、それなら
「なんのために戸籍、本籍地があるの?」
という疑問が生じるのも、自然なことかもしれません。現実的には住民票登録があるのですから、行政的なことはそれで事足りるわけですが、なぜ日本では戸籍が残っているのでしょうか?
この問題を考えるには、「江戸時代」にどうであったか?というところから遡らなくてはなりません。
一般常識や日本史の教科書でもご存知の通り、江戸時代は「キリシタン」が禁じられたため、「キリシタンではありませんよ」ということを証明するために、すべての民は「どこかのお寺の檀家として、そのお寺にぶら下がって管理される」ことになっていました。
これが今も、お墓や法事などでお世話になる「旦那寺と檀家の関係」のスタートです。仏教の宗派に所属しているので、おのずとキリシタンではない、という証明になったわけですね。
こうして各地の寺は、「宗派の管理」という側面から発展して、江戸幕府における「戸籍の代わり=人員の把握」に用いられるようになりました。
これらの情報が書いてあるのが「宗門人別帳」ですが、実はこの「宗門人別帳」に書かれていない人たち、というのが現れ始めたのです。
いろいろな諸事情で縁を切ったり切られたりして、どこかの寺に所属していない人たちは「無宿人」と呼ばれ、こうした人達をはじめ「把握されていない人員」が生じてしまったのが、江戸時代の限界でした。
さらに江戸などの都市が発展すると、「どこにも所属していない」「どこでも管理されていない」「誰にも把握されていない」人たちが存在することになってしまいます。
もともとの土地と縁付いてもいないので、他所へ行ってしまうと、本当に「誰」なのか把握できないことになってしまったのですね。
江戸時代の間は、なんとかそれでも誤魔化しながらやってこれたのですが、
問題は明治になった時です。
明治政府は富国強兵を打ち出すので、確実に「徴兵」して人員を管理しなくてはいけなくなりました。その際に「徴兵逃れ」が頻発してしまうと、そもそも誰もまじめに兵隊にいかず、逃げてしまいますから、まさに「国民総背番号制度」のように「マイナンバー」が必要になったのです。
そうして整備されたのが現行の「戸籍」です。個人個人のマイナンバーではなく、「家単位」で整備したので「”戸”の籍」なのですが、考え方は同じで、もれなく人員を書きつけるために整備された、というわけですね。
日本の戸籍の場合、「もれなく書きつける」ことは大事ですが、その帳簿をどこが管理するかは、実はどこでも良いわけで
■ 国家が一元管理して、どこか東京のデータセンターに全部置く
でもかまいません。
ところが明治政府はそれをやらず、
■ その一族(とその家の個人)が、その時住んでいた地域の市町村
などに原簿を置かせたわけです。
そういうわけで、もともとの戸籍は、その一族やその家があった地域で管理されることになりましたが、その後、時代が進んで「転居の自由」などが進んでくると、
■ 原簿が置いてあった場所
だけが残ってしまった、みたいなことになっているのが現状です。
こうして現在の本籍地は「もともとの原簿の管理されていた場所」くらいの意味しかなくなったのですが、たとえば仮にすべてが東京に置かれていたら、空襲で全部燃えてしまったとか、地震でデータがすべて飛んでしまったとか、そういうことも起こり得ますから、分散して管理されていたのは、それはそれで良かったのかもしれません。
現在のマイナンバーのデータは、テロなどを防ぐために「どこにデータセンターがあるのか」は公表されていませんが、おそらくは分散してなおかつ何重かの同じデータが複数で管理されているものと思われます。